今日も気分が悪くてやっとこさ病院に着いた。
昨日とうって変わって待合室には人っ子ひとりいなかった。
わたしはいつもその日の最終枠をいただいている。
そして、時間の許す限り長々と話を聞いて頂いている。
2日連続のわたくしの登場に、なぜか眼鏡の医者は笑った。いつもは眼鏡なんか掛けてないのに。わたしも笑ったさ。
「今日は何を話にきましたか」と訊かれた。
え?そちらが明日も来ていいよって言って薬も持たせずにわたしを帰したんじゃあないですか。
うつ病チェックされた。食欲あるか、眠れてるから憂鬱か、死にたいか。満点うつ病ちゃんであった。
「症状全部あるということでね」と医者が言うので。ああ、このままぶち込まれちまうのかなと思ったりした。一年前に入院した時にもこの抑うつ状態チェックをされて入院を勧められたからね。
でも先生は薬を出そうとした。あ、帰してもらえるんや。
パソコンに向かって薬の情報を出す。
わたしは昨日から、お願いするぞ。と心に決めていたから「安定剤を増やしてください」と言った。
いつもはふわふわと穏やかに喋る主治医だが「一気に飲まないで、一回に1錠ずつ飲むんだよ」と言った声はいつもの発声と違って、これはガチでわたしの心に言うて聞かしに来ている、と思った。
そして今日出していただく薬剤の記録のラベルを見せて先生は説明した。
診察時間が短くなると、患者は別の形で何かを求めてきて、埋めようとしていることがあるらしい。「それが顕著に出てるね」ってな。
昨日の診察の振り返りになった。これは、先生が振り返ってくださったんだな。
昨日の診察中に父親に対してどう言う思いを抱くかと問われて、「不安に寄り添わない」と言った。
詳しくエピソードを話すと、嫌がってもわたしをプールで泳がせてみようとしたりとか、怖いのに犬に触らせてみようとか、嫌なのにジェットコースターに乗らせたりとか。嫌だ、怖い、不安だ!と言って拒否をするのに。大丈夫大丈夫と言って強行された結果、わたしは大人になった今でも泳げずカナヅチだし犬にも触らないしジェットコースターなんて乗らないね。ただし、スペースワールドにあったブラックホールスクランブルは別だ。あれは屋内の真っ暗闇を進むから。自分がどれだけの高度をぶっ飛ばされているかがわからないのがいいんだな。もう無くなっちまったよ。
患者は、突飛な話はまあ、しないとのだと言われた。わたしが昨日語った父親への感想もその中継に取材の存在を噛んでいるということだ。つまり、昨日の父はわたしの怖いものに対する不安をわかってくれない、というエピソードを思いつき医者に話したということは、言い換えるなら『先生もパパみたいに不安なのに大丈夫だって無理矢理背中を押す』『わたしは不安だ、怖いって言っているのに先生はわかってくれてない』というメッセージが隠されているように感じた、という説明を受けていたら。そうかもしれない。わたしは不安なのに、大丈夫なんかじゃないのに。先生に松葉杖を奪われて「さあここからは一人で歩きなさい」って言って去られてったみたいな、そんな気分に近かったんだな。なんてことしてくれるんだ。
僕に負けている感情は、本来お母さんに向けたかった感情なんじゃないかな。
「つらいのに、わたしを置いていくんでしょ。わたしより大切な人のところに行っちゃうんでしょ」仕事で忙しかった母親に、そのように感じたことはなかったけど。医者に対してもっと大事な人のところへ行っちまうんだろ!と思っているのはご名答だ。
投影だね。いや、投影というより転移だな。だそう。何が違うんや。
医者はじっと時計を見上げていた。あんまりにも凝視しているので、なんなんだろうと思っていたが。
唐突に、先生は「外でも歩こうか」と言った。
診察はとっとと済まされて。医者も帰る準備をして。一緒に病院を去った。
先生はちょっぴり早足だ。
実は、先生と病院の外を歩くのは二度目だ。
退院する時、荷物が多いが迎えの車は来ないのでひとりで往復して荷物を持ち帰るか……とか思っていたら「昼休みのついでに」ってわたしの荷物を持って、マンションまで持って歩いて帰ってくれたんだな。
昨日フォロワーに、医者と二人きりになれたら連絡先を聞け、一歩を踏み出せ、と言われていた。
しかし、わたしの中の倫理がそれを許さないのである。
わたしも福祉職。利用者の個人情報は大切である。それを私的な理由で持ち出したりしてはいけない、というのが我が業界での倫理で。利用者と保育者との関係を保つことが重要とされている。例えばわたしの勤めている保育所なんかではあまり怒らないことだが、児童養護施設の職員とかだと。実習生は手紙をもらってはいけないとかなんとか。決まりがあったよなあ。プライバシーの関係で。
だから。わたしも倫理のある人間を保ちたいし、同じ対人援助職として倫理を貫いて欲しいところがあった。
主治医はわたしの隣を歩きながらもいつものように励ましてくれた。
わたしのように真面目で責任感があって完璧な人がどうしてそんなに自信がなくて、落ち込まなければならないんだい?と考え込んじゃうと言われるのだ。
そのままでいいんだよ、頑張ってるよ、大丈夫だよ。という言葉にうんうん、ということしかできなかった。
わたしの頭の中は、何故、わたしは今医者の隣を歩かされているんだい??という気持ちしかなかった。
しかも方向こっちじゃないし。先生の乗りたいバス停はとっくに通り過ぎてもうだいぶわたしの家の方面まで来ちまったよ。
車道側を歩こうとする先生にパパ見を感じた。ボケボケ歩いてたら「そっち危ないよ」と言ってくれたりね。
でもね、わたしゃいいんだよ、別に車に轢かれても。なんならわたしが医者を守ってやりたい気分だね。
正直緊張が上回って、トキメキとかキュンキュンとかのクソもなかった。やはり座って何もせずに、ただ話すことに集中する方がわたしはお話ししやすいのかも。
すごく、悪いことをしているような気分になった。のは、天気が悪くて曇っていたからか。
何故か火曜日はいつも天気が悪くて曇ってるんだ。この一年、心地の良い天気だった日があった試しがないよなぁ?
先生は家のすぐそばまで送ってくれたさ。わたしの自宅は病院まで徒歩10分ってなところだ。
いつもは行きも帰りも歩くのが億劫だが、先生と並んで歩いていたらあっという間だったし、なんかまだたどり着いて欲しくないな、という気持ちはあった。多分これは特別な時間だ。異様タイムすぎて。それを長く味わいたいとは思わないけど、どうにかして大切に味わなければ、と。院外を並んで歩いているという異常な状況に真っ白になった頭の中で思った。手を繋いで欲しい、と思った。たぶん、パパみを求めてんだ。あー!わたしも先生の家の養子になりたいな〜〜!JKと同じくよぉ
スーパーのガラスに映った先生の隣に立つわたしを見てみたり。
先生ってちっちゃいと思ってたけど、わたしってもっとちっちゃいから。なんだか並ぶとそんなにちっちゃく見えないわね。なんてね。
でも恋人にも夫婦に見えないよ。兄弟に見えない。
なんでもない。病院を出ても、白衣を脱いでも所詮は医者と患者であるから。
とにかく、こうして帰り道を共にしてくれる程度には、施してやれる価値があるんだよ、ってことを教えてくださりたかったのかもしれない。
泣いて連日病院に来ちゃうから。うまくあやされたってことだな。
安定剤3回分もありがと♡
眠気ほどではないがふんわり時間を過ごせてるから。
今日の文章力ははるきゅん先生の物腰くらいやわらかふんわりでお送りしました。